なぜ、あの会社は儲かるのか?
アップルやグーグルのような新しいビジネスモデルを構築し稼ぐことができたら...という想いは、どの経営者も考えることだろうと思います。
の著書は、日本企業が得意な同業他社をベンチマークして、品質とコストで勝負するということではなく、イノベーションを異業種に学ぶという視点から書かれている良書です。
例えば、スルガ銀行。
銀行は、個人から預金を集め、法人に貸し出し、その利鞘で儲けるというのが基本です。
ところが、スルガ銀行の5代目頭取岡野光喜社長は「より個人に近づき、生涯を通じて金融の相談に乗れる存在を目指す。」という「銀行からコンシェルジュへ」というビジョンを打ち出します。
つまり、個人金融(リテール)に特化し、法人は捨てるという選択をしたわけです。
背景には、間接金融(銀行融資)から直接金融(市場での調達)への動きの加速と、競争が激しい地域に存在することが挙げられていますが、大変な英断であったと推測できます。
そして、?他行が貸したくない人にも貸す。?他行にはない基準で商品を開発して貸す、という方針を打ち出します。
?は、例えば働く女性、中小企業に勤務するビジネスマン、転職の多いSE・プログラマー、外資系社員、外国人など、他行では貸したがらない顧客ではあるが、信用リスクをきちんと分析すれば十分成り立つ層を発見したのです。
当然、これらの層向けの融資は、通常に比べ高い金利を設定することになります。
?の商品開発については、定期借地権付き住宅ローン(土地を担保にとれないので、普通は融資しない)、健康に不安を抱える人向けローンなどがありますが、とりわけ面白かったのは「銀行員向け限定カードローン」でした。
このローンの融資対象は、他行の行員です。銀行員は、記録が残ってしまう自行からは借りたくないが、消費者金融からも借りたくないという心理を突いた、実に見事な商品です。
また、「銀行からコンシェルジュへ」を標榜している以上、行動基準をお客さま目線、つまり「お客様の購買代理人」になることが要求されるため、顧客ニーズを満たす商品・サービスを銀行内外から集めてくる必要があります。
そこで、ゆうちょ銀行などのほか、小売業、ANAなどとの提携も進め、住宅ローンをや定期預金を作るとマイルがたまる仕組みなどで、多くのマイレージ会員の口座開設を促しています。
また、データから、複数商品取引をする顧客ほど収益性が高く、取引の継続期間も長いということを発見し、こういった顧客へクロスセル・マーケティングを進め、優良顧客一人当りの収益性を高めています。
このように、顧客ターゲットをBからCへ転換しただけでなく、コンシェルジュ発想による顧客目標、データに基づくマネジメントなど、参考になるところがたくさんある事例です。
もう一つはコマツ。
コマツというとブルドーザーや油圧ショベルを作る建機メーカーをイメージしますが、コマツは、サービス事業を加え、他社にない事業モデルを構築しています。
そのコンセプトは「壊れる前日の予防保全」と言われるものです。、つまり、ブルドーザーや、ショベルなどに、GPSとセンサーを組み合わせたKOMATRAXというシステムを導入し、納品した建機が「壊れる前日に訪問して修理する」というサービスを組み合わせたのです。
ユーザーは、建機が壊れれば、修理まで工事が進まなくなります。少々高くてもコマツの純正部品を購入することにより、これらの機会ロスを防ぐことになります。また、中国などでは建機の盗難が多く発生するため、時速40キロ以上で走るとアラームが発生し(建機は時速40キロ以上で走れない)警察に連絡することにより、「盗難防止」機能も付加されたのである。
同時に、中国などでは、代金を支払ってくれないところが多く、そういう先の建機を遠隔操作でエンジンを止めるなどができるので「代金回収」という機能も付加されていることになります。
建設機械を複写機に置き換え衛星を通信回線に置き換えると富士ゼロックスのマネージド・プリント・サービスがKOMATORAXのビジネスモデルの原形と言えます。
この他にも、星野リゾートや、インテル、日本ゴア、ブリジストン、楽天サービスなど多くの事例が紹介されています。
詳しくは、この本をじっくり読んでいただきたいのですが、新たにビジネスを立ち上げようとしている人、あるいは、同質的な競争で新たなビジネスモデルを作ろうと考えている人にとっては、大いに参考となる良書です
「イミテーションはイノベーションより数も多く、現実に企業に利益をもたらすケースが圧倒的に多い」というセオドア・レビットの言葉をかみしめながら、わが社にも異業種のビジネスモデルを取り入れる機会を模索しているところです。
2012/12/07
- 雑感