暦年贈与に関する基礎知識と暦年贈与を使った相続税対策
2021年税制改正大綱で「相続時精算課税制度と暦年課税制度の在り方を見直す等、本格的な検討を進める」と盛り込まれました。ここ1年から3年の間で税制が改正される可能性もあり、長期的な贈与による節税対策が困難になる可能性があり、改正の動向をチェックしつつ、贈与の性格を理解したうえで早期の着手が必要です。
日本の贈与税は、暦年単位制度を原則としつつ、例外的として相続時精算課税制度があり、一般的に節税対策として使われるのは、暦年単位課税制度(以下「暦年課税制度」という。)です。
暦年課税制度は、通常の贈与で、受贈額が基礎控除額である110万円を超えれば贈与税の申告が必要となり贈与税が課税されます。
そして、贈与税の性格として最低限理解しておくべきポイントは、
①暦年単位であること
②受贈者単位であること
の2点です。
例えば、家族の中で「父→長男 100万円贈与」「母→長男 100万円贈与」を同じ年に行った場合、父・母から見ると100万円ずつしか贈与していないので、贈与税がかからないと考えている人がいるようですが、これは間違いです。
長男から見ると受贈額が200万円となるため、200万円-110万円=90万円(課税対象額)となり、90万円×10%=9万円の贈与税額になります。
上記の贈与の場合、贈与の年度を父と母で違えば贈与税はかかりません。
贈与税を1円も払いたくなければ、贈与年度を変更し贈与をしてください。
ただし、父や母から贈与を受けて3年以内に、贈与した父・母が亡くなった場合は、法定相続人である子供の受贈額は、相続財産に持ち戻して相続税の計算が必要となりますので、ご注意ください。
では、暦年贈与がなぜ相続対策になるのかを説明します。
例)
Aさんの推定相続財産 1億円
相続人:配偶者C、子2人(DとE)
上記の相続財産を法定相続割合(配偶者1/2、子1/4)で相続した場合、
相続税総額は315万円(実効税率3.2%)となります。
子DとEには、それぞれ子供(Aさんの孫)が3人ずつ計6人います。
そこで、Aさんが孫6人に200万円ずつ贈与すると、200万円×6=1,200万円の財産が減少します。
1億円→8,800万円になると、相続税の総額は225万円となり、90万円の相続税が減少します。贈与税は9万円×6=54万円なので、実質36万円の税額が減少しました。
これを2年間続けると、2400万円相続財産が減少し、7600万円となった場合、相続税は150万円まで減少します。贈与する前から見ると315万円→150万円なので半額以下です。
贈与税は54万円×2年=108万円なので、実質57万円の税額が減少します。
そして、孫は遺言書で指定をするか養子縁組をしない限り、相続により財産を取得することはありませんので、万が一贈与者が亡くなっても、基本的に贈与財産を相続財産に持ち戻す必要はありません。
以上のように、贈与により相続税の負担を減らせる効果がありますが、最後に注意点があります。
必ず贈与契約書を作成し、受贈者本人が使用する預金口座に振り込むことです。
贈与は民法549条で「贈与は、当事者一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受託することによって、効力を生ずる」とあります。
贈与する側の意思だけでは効力が発生せず、受け取る側も合意しないと贈与は成立しません。
例えば孫が無駄使いしないよう孫名義の銀行口座を開設し、そこに一方的に入金したとしても、祖父母がその口座を管理しているのであれば、その口座は「名義預金」として扱われ、贈与者側の財産のままであり贈与とは認められません。
必ず書面を作成し、贈与側と受贈側とで自筆の署名を行い、それぞれが所有する印鑑で押印するようにします。受贈者が未成年の場合は親が代わりに署名押印し口座の管理も親が代わりに行います。子供本人が中学生や高校生であり署名できるのであれば、親の署名押印と合わせて署名押印しておくとよいでしょう。
相続事業承継部
2021/11/19
- 相続税・贈与税