家族信託の受託者の義務について
家族信託の受託者の義務は、次のとおり信託法に規定されています。
・信託事務処理義務
・善管注意義務
・忠実義務
・第三者委託に関する義務
・公平義務
・分別管理義務
・帳簿作成・報告等義務
今回は、この中から「分別管理義務」と「帳簿作成・報告等義務」について説明します。
受託者は、信託財産に属する財産=「信託された財産」を受託者固有の財産=「自分の財産」と分別して管理しなければなりません。
「信託された財産」は、信託の目的に従い受益者のために管理・処分する必要があります。
また、受託者が個人的に負担した債務について差押え等の強制執行がなされた場合、信託財産から回収することはできません(信託の倒産隔離機能)。
しかし、分別管理されていなければ、第三者に当該財産が信託財産であることを証明することは困難です。
そのため、信託事務を遂行する中で、受託者が信託財産の管理処分を適正に行えるよう分別管理が重要です。
具体的には、不動産であれば信託登記、動産は外形上区別して管理、金銭その他は帳簿等により計算を明らかにする必要があります。
受託者は、信託に関する帳簿その他の書類を作成しなければなりません(信託法37条1項)。
また、年に一度、一定の時期に、貸借対照表、損益計算書その他の関係書類(財産状況開示資料)を作成しなければなりません。
受託者が作成し税務署に提出が必要な書類として下記のものがあります。
●家族信託開始時に税務署に提出するもの
・他益信託であり、受益者別に評価した信託財産の相続税評価額が50万円超の場合
「信託に関する受益者別(委託者別)調書」
「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」
※委託者=受益者である自益信託の場合は提出不要です。
●信託契約期間中、毎年1月31日までに税務署に提出するもの
・1年間の信託財産に係る収益の合計額が3万円超(計算期間が1年未満の場合は1万5千円超)の場合
「信託の計算書」前年の信託財産の状況等を記載したもの。
「信託の計算書合計表」
●毎年の受益者の確定申告時に提出する書類
・信託不動産から収益がある場合
「不動産所得に関する明細書」
・通常の不動産所得に関する書類(収支内訳表など)
・信託から生じる不動産所得に係る明細書
・信託不動産に関する賃貸料や減価償却費、借入金等を記載したもの
●家族信託の変更時(受益者交代や契約内容の変更の際)に税務署に提出するもの
・信託に関する権利の内容に変更があった場合や受益者が交代した場合で、かつ受益者別に評価した信託財産の相続税評価額が50万円超の場合
(提出期限:変更があった月の翌月末まで)
「信託に関する受益者別(委託者別)調書」
「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」
※受益者別に計算した信託財産の相続税評価額が50万円以下の場合、提出不要です。
・法人が信託受益権の譲渡を受けた(新受益者になった)場合
(提出期限:その譲渡があった翌年の1月31日まで)
「信託受益権の譲渡の対価の支払調書」
※受益権取得の為に対価を支払った法人が作成し、提出する必要があります。
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2019/12/13
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