税理士川端雅彦コラム

KAWABATA MASAHIKO COLUMN

vol50「うまく融資を引き出すための銀行交渉術」

■Vol50 2003年10月16日
 
 10月1日に発表された日銀短観によると、大企業製造業では、業況判断指数はプラスに転じたものの非製造業、ならびに中小企業のそれは、まだまだマイナスのままとなっている。
 この状態が続けば、大手都市銀行の「貸し渋り」と「貸し剥がし」は、とりわけ中小零細企業に対しては加速度的に進行していくものと想定されます。
 また、地域金融機関である地銀においても、格付け融資基準が重視され「企業選別」と「リスクに見合う高金利」施策を強化しており、中小零細企業においては、ますます資金調達が困難な環境になりつつあります。
 直接金融を模索すべし!との議論は、最近高まりつつありますが、いきなり中小企業が、その道を切り開けるわけでもなく、当面は、金融機関からの間接金融に頼らざるを得ないのが現実です。
  
 このような環境下において、中小企業が、円滑に資金調達を実施するためには、次の3つのポイントが考えられます。
○自社の体質に合った金融機関を選ぶ。
○銀行が信用できる決算書をつくる。
○意欲的で誠実な事業計画を立案・実行する。
−身の丈に合った金融機関と付き合う−
ご承知のとおり、企業の与信格付けは、一般的に、正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先と区分されます。
 ところが、各金融機関によって格付けが多少異なることを理解しておく必要があります。例えば、都市銀行で破綻懸念先に格付けされたとしても、信用金庫、信用組合では、要注意先程度に格付けされる場合もあります。
 要するに、自社の技術力や将来性を評価してくれるような、自社の体質や規模にあった金融機関を選ぶことにより新たな資金調達の道が開けてくる可能性があります。
−銀行が融資したくなる信用できる決算書をつくる−
 銀行に融資を要請する場合、必ず決算書や試算表を要求されることになる。ところが、直近の試算表が、すぐに提出できない場合があります。
 これなどは、そもそも財務諸表を経営の羅針盤として活用していない現われと見られ、「計数管理能力」そのものを疑問視されることになります。
 また、出てきた試算表や決算書に回収不能な売掛債権や、不良在庫が計上されていることが審査により発見されると、信憑性がなくなってしまいます。
 したがって、スピーディーに財務諸表が提供できる仕組みと、勘定科目の詳細まできちんと説明できる信憑性を確保しなければなりません。
 また、ちょっとした工夫によって与信を改善できる場合があります。例えば、「金融検査マニュアル」においても、代表者からの借入金で返済を要求しない場合は、自己資本とみなすことができるとなっています。 
 
 中小零細企業の場合、会社と代表者の資産は、実質一体といえるからです。このような場合、返済を要求しないことをより明確にするために、借入金を「資本」に振替ることにより、より信用度を増すことができます。あるいは、社債に置きかえることでも可能となります。 
 そのほか「代表者への報酬」や「家賃」を減額することにより、赤字が解消される場合には、与信向上へとつながります。
 このような、工夫と説得をすることによる与信改善機会は、最大限に活用しなければなりません。
−意欲的で誠実な事業計画を立案・実行する−
 例えば、金融機関へ返済条件の緩和(リスケジューリング)を要請する場合、このまま約定が推移すると仮定した「約定資金繰り表」と、新たな事業計画に基づく「変更資金繰り表」を作成する必要があります。そして、この事業計画の良し悪しが、返済条件の緩和要請の成否に大きく影響を与えます。
 事業計画においては、ドラスティックに経費削減を実行する計画を指し示す必要があります。とりわけ役員報酬は、ぎりぎりの金額まで抑え、自己犠牲を伴う再建策を立てることが重要です。
 また、法人資産の他、役員個人の資産を換金して借入金圧縮を図ることができれば、金融機関に対して納得性の高いものとなります。
 そして、実現可能性の高い事業計画を、経営者自らがコミットして実行して行く意欲と誠実さをアピールすることになります。金融機関にとっても、倒産により全額貸倒れになるより、確実に回収できることを望んでいます。
 金利減免やリスケジューリングに応じてくれる事例は、私共も多く経験していますが、その成否は、経営トップの意欲と誠実さに左右されるのです。

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2003/10/12

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