税理士川端雅彦コラム

KAWABATA MASAHIKO COLUMN

vol.42 「新しい競争のルール 企業進化」

今回は、前回のコラムが少し解りにくいというお叱りを受けたので、もう少し掘り下げて解説したいと思います。まず、今起こっている儲からない現象の背景を整理すると次のようになります。

  1. 物が売れない、また売れたとしても価格競争に巻き込まれて、思うように収益があがらない。
    これは、製造、販売している製品の機能が差別化しにくい場合や、差別化要素がすぐに追い付かれる場合、特に顕著となっている。この時多くの企業は、人員削減などによってコスト削減を実施し、静かに好況が来るのを待つ「受け身」的な経営に陥ってしまう。これは、抜本的な解決策にはならず、今日の将来予測を考えると、「座して死を待つ」事になる可能性がある。

  2. 産業の利益構造が、製造からその後に発生する「各種サービス」に移っている。
    製造業の収益性が低下しているということは、小売流通業に20%もの粗利を確保させることなど困難になってきている。例えば、損害保険や生命保険の販売手数料はユーザーのコストアップの要因となり、今後ますます低減して行くことが予想される。


自社は何業かを再定義し顧客生涯価値を高める
このような環境下において、企業経営者が本業に立ち戻って考えなければいけないことは、自社の顧客は購入することによって、どのような「効果、効用」を得ようとしているのか、ということです。セオドア・レビット博士の言葉を引用すれば、「顧客は、ドリルを求めているのではなく、ドリルで開けられた穴を求めている。」という洞察に基づき「自社は何業か」を再定義しなければなりません。
もう一つは「顧客生涯価値」という概念です。これは、顧客が製品を購入してから廃棄、あるいは買い替えるまでの所有期間の使用価値の事を言います。一般的に、新規顧客を獲得するためにかかるコストは、既存顧客に販売するコストの5倍かかると言われています。ということは、製品そのものに差別化要素がなくても、購入後の利便性を高めるサービスを付加し、満足度を上げることによって、再販確率が上がりマーケティングコストの低減と相まって、収益性が向上すると言うことです。
サービスを有料化する
しかし、この時に重要なことは、サービスをただにするのではなく、利益を生む事業にすることです。例えば、コンピューターを購入する会社は、PCの購入そのものに価値があるのではなく、PCを使うことに価値があるわけです。従って、販売業者が自社の事業を「PCを使って、顧客の業務上の問題を解決すること。」と再定義し、顧客の利用目的を確認した上で導入・運営・システム構築等のコンサルテーションを実施する事が出来たなら、ライバルに大きく差をつけられるばかりか、コンサルテーション自体に利益を付加させることができるのです。
また、生命保険代理店が「顧客へ安心を提供すること。」と自社の事業を再定義し、加入者に万が一の事が合った場合、相続に関連するサポートを行う等の保全サービスを行うことも可能になります。事実、自分が死んだ時に家族は自分が加入している保険会社にきちんと手続きができるだろうか、あるいは、どこに案内状を出したらいいか理解しているだろうか、という不安をもっている方は多く存在します。(このようなサービスがあれば、阪神大震災であれほどの保険会社への請求洩れも防げたでしょう。)
その他に、印刷業者が「顧客の販売促進を支援する。」と自社の事業を再定義し、販売先紹介などの新たなサービスを加えることが出来たなら、サービス自体で儲からなくても受注確率は競合に比べ高まるはずです。
次に、重要なことは、顧客との接触頻度が高まるようなサービスを事業化することです。例えば、システム構築を実施したクライアントはPCの故障によりデーターを失う危険性が必ずあるため、メンテナンスやPC保険を販売する機会が生まれます。これは、利益につながると同時に、定期的に接触機会が生まれます。ハードウェアの購入は一度だけでも、その後にサービスニーズを喚起することによって、継続的な顧客との関係を築くことが、次の販売機会を増幅させることになります。
現在は非常に厳しい環境下にありますが、単純にコスト削減に躍起になるのではなく、コストを最大限に活用する発想があってもよいはずです。既存の事業に新しい競争のルールを持ち込む事によって、「企業進化」することが、今、企業経営者に課せられている課題でもあると思うのです。

京都・大阪の税理士ならアイネックス税理士法人

2003/09/17

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