事実と意思決定の間に横たわるもの
テレビ番組の討論会などを見ていると、その出演者の主張が、どう考えても論理的ではないのですが、他の人がきちんと反論できないまま、議論が変な方へ向いて行ってしまうことがよくあります。
例えば、次の主張はどこが間違っているでしょうか。
「消防車と火事の発生件数を比較してみると、消防車が出動するほど火事が増えている。よって、火事を減らすためには、消防車の出動を減らすべきである。」
これなどは、明らかに原因と結果がさかさまで「おかしい」と分かる事例です。
では、次のような主張は、どうでしょう。
「オタクだから、彼女ができない。」
うーん...分かる気がします。でも、実際は、オタクだから、彼女ができないのではなく、「彼女ができないから、オタクになった。」のかもしれません。
同様に「営業成績の良い人は、仕事に対するモチベーションが高い。」という主張も、「仕事に対するモチベーションが高い人は、営業成績がよい。」のかもしれません。
これは「因果関係が逆さまにとらえている。」という間違いです。
では、これはどうでしょう。
「アメリカ合衆国の何か所もの地域で調査したところ、コウノトリの生育数と、その地域で生まれる赤ん坊の数には高い相関関係(コウノトリの多いところでは出生率も高く、逆にコウノトリの少ないところでは出生率も低い、という関係)があるという衝撃の事実が発見された。よってコウノトリの減少が少子化の原因である。」
事実としてコウノトリと出生率には高い相関関係が表れています。
だから、少子化対策としてコウノトリを育てよう!なんて政策が取られたら(支持する人はいないと思いますが)たまったもんじゃないですよね。
これらは、都市化によるコウノトリの減少と、都市化による両親の共働きや核家族化による少子化によるもので、相関関係はありますが、因果関係はありません。
これらは、「相関関係と因果関係を混同している」という間違いです。
最後に、もう一つ例をあげます。
「水道水はたいへん危険である。なぜなら、水道水中のトリハロメタンのせいで癌になるからだ。事実、大阪の水道水には、沖縄の水道水の3倍ものトリハロメタンが含まれており、癌の発生率は沖縄より大阪の方が2倍も高い。」
これは、一見正当な主張のようですが「疑似科学」と言われるもので、騙されてはいけません。
ここでの誤りは、他に原因があるかも知れないのに、特定の原因のみに焦点を当てているのが問題なのです。
癌になるには、他にもたくさんの原因があるはずなのに、「水道水は危険だ!」とだけ言うことはできません。もし、トリハロメタンが原因なら、原因を取り除けば、癌が発生しない、あるいは減少することを証明しなければなりません。
これは、「他に原因があるかも知れないのに、特定の原因にのみ着目している」という間違いです。
(以上は「武器としての決断思考(瀧本哲史著)」という本の中で記述されていた事例を引用しています。)
なぜ、このような話をするかというと、ビジネスの成果に直結する論理的思考力はビジネスマンにとって、必要不可欠な思考アイテムであるからです。
私たち、ビジネスマンは日々、意思決定をしています。そして、多くの意思決定は事実やデータを基に行われます。
したがって、その事実と意思決定の間の因果をきちんと組み立てる能力がないと、正しい意思決定をすることができません。
事実と意思決定の間に横たわる「論理的思考力」を磨くことが、ビジネスを成功に導く鍵の一つだと思うのです。
2012/05/18
- 雑感