競争と公平感
この著書の中身を全部要約するのは、少し骨のおれる作業なので、最も印象に残った部分について書評してみたい。
冒頭における事例の中に、次のようなものがある。
日本においては先進国グループの中でも「若年層ほど、勤勉より運やコネが人生の成功で重要だと考える人の割合が高い。」という統計が示されている。
そしてこれは、長く続いた不況に起因するとしている。
しかし、なぜ運やコネで人生が決まってくるという考え方が広まると、反市場主義的な考え方につながるのだろうか?
コネを排除するためには、参入障壁をなくして、競争を厳しくすることが一番いい解決策のはずである。
その理由として、日本において、市場主義と財界主導(大企業主義)の区別があいまいになり、財界主導の政策がとられるようになった。ことにあるとしている。
小泉政権で経済政策の企画立案として機能した経済財政諮問会議の民間委員は、市場を代表する経済学者2名と大企業主義を代表する財界2名で構成されていたからである。
つまり、小泉政権の政策は、市場主義的な政策と財界の利益誘導、利益獲得というコネ社会の両方が混じったものになっていたのである。
また、「官から民へ」という政策についても、例えば郵政民営化の際の競争入札で、規制緩和に関係した企業が安い価格で落札していた(事実はどうかわからないが)という結果が、市場主義=大企業主義という誤解を生んだ可能性がある。
『これらで、一番割を食ったのは「市場主義」である。市場主義が既存大企業を保護する大企業主義と同一視されたために反大企業主義が反市場主義になってしまっているのではないだろうか。』としている。
同時にこのことは、小泉構造改革においてでさえ、市場主義が徹底されていなかったのであるといえるのではないだろうか?
市場主義に最も重要な、だれでも競争に参入できるという公平性が小泉政権においてでさえ、担保されることがなかったのである。
そして、この国の不幸は、これらの混同を、鋭く、かつ、分かりやすく国民に説明できる政治家が見当たらないことではないだろうか。
その点で、この本は一読に値する。
「市場による自由競争によって効率性を高め、貧困問題はセーフティーネットによる所得再分配で解決することが望ましい。」という、どんな経済学の教科書にも記述されている、政策の王道が実現される日が早く訪れることを期待したいものだ。
2010/08/03
- 雑感