税理士川端雅彦コラム

KAWABATA MASAHIKO COLUMN

事業承継は人を残すということ

日本電産の社長交代劇のドタバタは、社長交代がいかに難しいかを世間に知らしめることになりました。

もちろん、永守会長のカリスマ性に起因する要求水準が、異常に高いということもあったのだろうと思いますが、優秀な人材を確保できる上場企業ですら、こんなことが起こるわけですから、中小企業にとっては、本当に難しい経営課題だと思います。

事業承継の目的は、経営に大きな損失を与えることなく、最適な後継者へ滞りなく事業を引き継ぐことといえます。 さらに、経営に損失を与えることなく新たな社長の下で経営が上向きになれば、事業承継は成功であるといえます。

一般的に、中小企業の経営者はトップセールスマンである場合が多く、トップが退くことによる売り上げ、利益の減少が想定されます。こういった事態に陥らないように、組織として営業できる仕組み、強い商品力、売れる仕組みの構築をしておくことで、財務上のダメージが起こらないようにしておくことが必要です。

しかしながら、そういった理想形を作ることができないまま、事業を承継しなければならないケースも数多く見受けられます。

つまり、後継者にとっては、マイナスからスタートするというケースです。こういった場合、後継者はマイナスからのスタートであるから、うまくいかないというエクスキューズを言いがちです。

しかしながら、マイナスであるとはいえ、ゼロからスタートすることに比べ、事業の基盤があるわけですから、これほど有難いことはないわけです。

したがって、こういうケースでは、ここまで基礎を作ってくれたことに対する感謝を先代に対して、持つことができる人間関係を作っておくことで、試練を乗り越える「覚悟」を醸成しておく必要があります。

つまり、例え、マイナスからのスタートであっても(もちろんプラスからのスタートであっても)自身が経営者になったからには、先代を乗り越え「第二の創業」を実現するのだという気概を持ってもらう必要があるわけです。

そのためには、先代と後継者の間で「継いでくれてありがとう。」「継がせてくれてありがとう。」という感謝の気持ちが事業承継を円滑にする必要条件と言えます。

加えて、重要なことは、タブーを排除し、風通しのよい組織風土をつくっておくことです。

具体的には、間違っていること、好ましくないことがあれば、後継者が、躊躇なく正しい方向に是正できる企業文化を作っておくということです。

よくあるケースとして、カットしたいコストがあるが、創業時からの役員のしがらみがあり、なかなかカットできないといったことや、この先も赤字であることが見込まれるのに、撤退できないなどのタブーが存在することがあります。

こういったタブーを排除し、間違っていることを正すことに遠慮のない組織風土を作っておくことは、現経営者が、その権力の及ぶうちにやっておかなければならない前裁きと言えます。

事業を承継するということは、現経営者にとって、最も悩ましい問題の一つであります。創業経営者が持つ「突破力」は、後継経営者にはなかなか身につけることができません。それに加えて、長年経営者として会社全体を俯瞰して得た経営に対する知見は、それほど簡単に引き継ぐことはできません。

であるからこそ、事業承継には、具体的な計画の下、時間をかけて行う必要があります。

経営者として、事業を残すことは何より大切なことです。しかし、それ以上に、引き継いた事業を、第二の創業であるという「覚悟」をもって、自ら新たな成長を目指すのだという後継者という「人」を残すことが大切なのだと思います。

三流は金を残す。二流は事業を残す。一流は人を残す。

この言葉を噛みしめながら、全精力を注いで、後継者という「人」を育てあげることが、現経営者にとって、次なる成長のための最重要課題だと思います。


令和4年11月1日

アイネックス税理士法人

代表 川端雅彦

京都・大阪の税理士ならアイネックス税理士法人

2022/11/04

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