「自利利他」は商売の原点である
仏教用語に自利利他という言葉がありますが、その意味するところは「自らの悟りのために修行し努力することと、他の人の救済のために尽くすこと。」です。
もう少しわかりやすく言うと、他人の幸せ・他人の利益のために修行・努力することが、自らの利益にかなう、ということです。
そして、この言葉は多くの企業の理念などにも引用されており、代表的な企業の一つとして、1万人を超える税理士・会計士が利用するサービスを提供しているTKCなどがあげられます。私の尊敬する、稲盛和夫京セラ名誉会長も、常に利他に尽くせと言っておられます。
仏教用語の「自利利他」が、なぜ企業の経営理念に引用されるのかというと、この精神が商売の基本でもあるからです。
このことを説明する逸話があります。
昔、ある男が海辺の村を訪れました。海辺の村なので、塩に事欠くことはありません。しかし、その村には米ができる耕作地が少なく、米が不足していたのです。
そして、何とかしてこの村の人たちを救うことができないかという思いを抱きながら村を後にしたその男は、今度は別の村へやってきました。その村は、米を収穫する耕作地は潤沢にあったのですが、塩に事欠くことが多かったのです。
その事実に気づいた男は、何とかこの村の住民が困らないようにすることができないかと想いを巡らせたところ「そうだ!前に行った村から、塩を取り寄せ、この村の米と交換すれば、どちらの村も潤うではないか!」と思い至ったのです。
そうして、この男は海辺の村の塩と米を交換する流通、つまり商売を思いついたのです。
しかし、ここで大事なことは、この男は「何とかこの村の人たちの困りごとを解決する方法はないか?」ということを常に考えていたからこの閃きが舞い降りてきたのです。
つまり、商売・ビジネスの原点は、どうすれば他人を幸せにすることができるのだろう?という考えから出発しているわけです。
商売というのは、誰かに損をさせて自分が得するというものではありません。そうして一時的に利益が出たとしても、長く続くはずがありません。その原点は、商売をする「相手の利益」をかなうことがなければ、成立しないのです。
何をしてあげれば、喜んでお金を払ってもらえるのかを考え、実行しなければ長続きは絶対しないのです。
仏教では、自分の利益のことばかり考える人ことを「我利我利亡者」と言いますが、そういう人はビジネスの世界では成功しません。一時的に利益を得たとしても、人として幸福を感じることもないでしょう。だから「自利利他」を自社が拠って立つ「経営理念」として標榜する会社が多いのだと思います。
改めて、お客様の求めるものは何か?そのためにわが社ができることは何か?を考えるきっかけにしようと思っています。
2021年3月
アイネックス税理士法人 代表 川端雅彦
2021/03/29