内需拡大に寄与する税制とは?(岡田)
被災地での投資活性化と雇用創出を促進するための税制上の特例措置(案)が先月
公表されました。これは、復興産業集積区域(復興特区)での新設企業や設備投資等に
課税上の特例措置を認めるものです。
まず第1に、復興特区内で新設された法人が、各事業年度の所得金額を限度として
再投資等準備金として積み立てたときは、その積立額を損金に算入できることとなり
ました。これは利益が発生してもそれと同額の損金を計上できるので、税務上の利益
を全く発生させずに済む、すなわち法人税の全額免除を認めるものです。
第2に、復興特区内で新設された法人が、復興特区内で機械又は建物等に再投資
等を行った事業年度において、再投資等準備金残高を限度に初年度即時償却できる
こととなりました。新設企業以外でも開発研究用資産や一般の機械装置については
同じく初年度即時償却が認められます。初年度即時償却については中小企業の少額
減価償却資産やエネルギー需給構造改革推進投資促進税制(エネ革税制)等におい
てすでに実施されていますが、今回の特例措置は適用対象資産についての制約を取り
払ったという点で大きな意味を持っています。
この他、雇用機会の確保に寄与する事業者として指定を受けた法人は、特区内の
事業所で雇用した被災被用者に対する給与等支給額の10%を法人税額から控除で
きることとなりました。雇用促進税制については平成23年度改正で、一定要件を満た
す法人に「雇用者増加数×20万円」の税額控除がすでに認められていますが、今回
の特例措置は税額控除の基準を雇用者増加数ではなく給与等支給額とした点で、一
歩進んだ措置と言えるでしょう。
これらの措置は被災地での投資活性化や雇用創出に少なからず寄与することとな
りそうですが、このような税制上の特例措置が復興特区のみでしか講じられないのは
大変残念なことです。というのは、電力の供給制約や長引く円高などによる競争条件
の悪化から、日本の多くの製造業がすでにその製造拠点を海外に移転せざるをえな
い状況に追い込まれているからです。現在の状況を放置していれば、低賃金を前提と
した労働集約型産業のみならず、高付加価値の資本集約型産業までが大挙して日本
を去り、日本国内の雇用、ひいては日本のGDPに多大な悪影響を与えることにもなり
かねません。そうなる前に何らかの政策的対応が必要不可欠ですが、それを考える
上で今回の復興特区での特例措置は非常に参考になるものです。
法人税率については平成23年度改正で実施されるはずだった実効税率5%引下げ
が震災によって棚上げとなり、逆に復興財源として平成24年4月から法人税額の10%
相当額の復興特別法人税が課されることとなります。3年間の時限措置とはいえ、企
業活動に対して負の影響を与えることは避けられません。各種研究機関やシンクタン
クの分析においても復興財源として経済成長に対する負の影響が最も軽微なのが消
費税であることは共通認識となっているにもかかわらず、今回あえてこのような措置が
考案されたのは、背後にある政治的な圧力を抜きにしては説明することができません。
初年度即時償却については対象資産を限定せずに導入すれば設備投資額を全額
損金計上できるため、黒字企業にとっては節税対策上の大きなインセンティブとなり、
国外投資に対する代替効果を生じさせます。また、給与等の総支給額を基準とした税
額控除によって労働分配率が向上すれば、日本国内で進行するデフレの連鎖を緩和
することに少なからず寄与することとなるでしょう。これらはいずれも日本国内で創出
される付加価値であるため、日本のGDP向上に直結することとなります。
いずれにせよ対策は待ったなしの状況です。今や日本国内の多くの企業が外部的
な要因によってその生存を脅かされている、言い換えるならば日本全土が被災地と
同じような状況にある、ということを私達は認識しなければなりません。被災地のみな
らず、日本全国のありとあらゆる地域がそのような特区を必要としています。海外から
の直接投資まで念頭におけば、この経済特区の立地は国際線の発着する空港や大
規模な港湾の近辺が最も望ましいと言えますが、候補地は日本国内の至る所にある
のです。今こそ政策担当者の迅速かつ大胆な意思決定が必要とされています。国内
投資の活性化なくして雇用の創出はなく、雇用の創出なくして内需の拡大はありえな
いのです。
2011/11/02
- 企業経営や時事について