老後の資金がありません
老後の資金がありません。著者:垣谷美雨
この本を選んだきっかけは、ズバリ、私もタイトル通りの状況だからです。また、主人公の年齢も近く、リアルに読める内容では・・・というのが選んだきっかけです。
主人公の篤子は、物語のスタート時点では1200万円の預金を持っていたのですが、娘の派手婚に400万円、舅の葬式費用に500万円と飛んでいき、みるみるうちに300万円に・・・。
その後、篤子はパート先をリストラされ、間もなく定年を迎える見栄っ張りな夫もリストラ。
派手婚をした娘のさやかは小さい時から気も頭の回転も悪く目が離せない。
そんな姉をもつ息子の勇人はしっかり者で、就職先も決まり会社の寮へ。
老舗の和菓子店を経営していた舅と姑は浪費家で、「先は長くないだろう」と高級ケアマンションで豪華な暮らしをしていたが、想像以上に長生きし、お店を畳んで得た2億を超える財産はみるみるうちになくなり、娘の派手婚の数カ月後に舅が大往生。
立て続けに「ライフイベント」が発生し、みるみるお金が飛んでいくのですが、どれもこれも予想外という出来事ではありません。ただ、「予想以上にお金がかかった」だけ。
派手婚もお葬式も他人に対する見栄を捨てれば、そんなにかかることはありません。派手婚も結婚相手のいいなりではなく、話し合って削ることもできたのですが、それができない。
お葬式も「代々続く老舗の和菓子店」をしていたから代々頼んでいる葬儀屋でそれなりの規模でしなければという気負いと、「きっとたくさんの弔問客がくるから香典で回収できるだろう」と甘い考えで高価な祭壇を選んだりしたものの、高齢すぎてお付き合いがあった人たちはこの世にはいなく、ほとんど弔問客がなかったために、あてにしていた香典は入らなかったという結末に。(そもそも結婚式もお葬式も、話を進めるうちに金銭感覚がおかしくなるんですよね。)
他にもいろんな出来事が起こるのですが、それは「誰にでもある身近な事件」(年金詐欺のような話が出てきます。そこは誰にでもあるのかはわかりませんが(笑))ですが、そこに子供が生まれてから付き合いが続くいわゆる「ママ友」のサツキや姑の行動が絡み、いろんな気づきを与えてくれます。
インターネットで「老後資金」と入力しかけると「老後資金にはいくら必要か」が検索ワードのトップに出てきます。そして検索した最初の画面には、「ゆとりある老後生活を送るためには、約3,360万円もの老後資金が必要になります。 政府が発表している2,000万円は、あくまでも通常の日常生活を送ることを想定した金額で、旅行や趣味などを楽しむゆとりが欲しい場合や、突発的に発生するリスクのある医療費や介護費が発生することが考慮されていません。」と出てきます。
この本は「老後資金にはやっぱり最低2000万円が必要ですよ。2000万円を貯めるにはこうすればいい。」というハウツー本にはなっていません。
実際、この物語の中では、2億円も持っていた義両親のお金がみるみるうちになくなってしまったのですから、人によって必要な額は違うと思います。しかし、お金が無くなってしまった姑が主人をなくし路頭に迷ったかといえばそうではなく、実はお金があったので引き続き優雅に・・・ともなりませんが、高級ケアマンションにいた時よりも生き生きとし、長年の経験を発揮し、周りにいろんなことを気づかせるきっかけを与えてくれることになります。
だから「老後資金は2000万円ないとだめ」ではなく、その人にとっての老後をどうしたいかによるのだなと私は感じました。高級ケアマンションに入居したければ数千万円は必要ですが(笑)。
結婚式にしてもお葬式にしても「本来の目的は何なのか」「誰のために式をするのか」を考えると、必ずしも豪華な式が目的を達成するとは限らない。豪華な式をすることによって誰かが不幸になるのであれば、それは本当に幸せな式と言えるのだろうかと、後々に主人公は気付きます。そして、1200万円あった頃より生活は激変しましたが、最後はハッピーエンドな雰囲気で終わります。
老後資金が足りないと悩んでいる方に一度読んでいただきたいお話です。
新型コロナウイルスが収まって、予定通り映画が公開されるといいのですが・・・。
難しい本の合間に、息抜きで読んでいただけたらと思います。
アイネックス税理士法人 西本
2020/08/06
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