こういう方は狙われやすい? 相続税の税務調査編
6月に入りました。
新緑がきれいな時期に入り、最近ベランダの植木鉢に種植えした青しその芽が出て少しずつ大きくなってきました。これからが楽しみです。
さて、7月10日が国税の新事務年度ということもあり税務署長の決済の関係で、5月から6月の初旬にかけては、大方の税務調査も刈入れ時なのではないかと思います。私も国税不服審判所勤務時代は、人事異動の内示が、新事務年度から起算して2週間前になされる習慣があり、内示が出るまでの時期は国税職員もソワソワしていたことを思い出します。
今回は、相続税の税務調査の選定について少しお話をさせていただきます。
調査の話に入る前に、一定の財産をお持ちの方が亡くなった場合に税務署から「お尋ね」が送られてきてびっくりされた経験のある方もおられると思います。なぜ、税務署は、故人が死亡した事実を把握できているのでしょうか。
相続税法には相続税法第58条という規定があり、死亡届を受理した市区町村は、受理した日の翌月末までにその死亡届出に記載した事項に加え、故人がその市区町村内に所有する固定資産の評価額に関する事項などを所轄税務署に通知する義務があるからです。
この通知を受けた税務署は、KSKという国税の情報端末や税務署内にある資料などから相続税申告義務が発生する可能性がある方宛にお尋ねを送付しています。ご存知のとおり、相続税は、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)というものがあり、原則として基礎控除を超える方は相続税の申告義務が発生します。そして、申告義務がある方は、相続の開始があった日の翌日から10月以内に相続税の申告と納税を済ませる必要があります。
残念ながら申告が終わればそれで終わりというわけではなく、税務署の選定に運悪く選ばれてしまった方は、後日税務調査を受けることになります。現在は、国税の更正処分ができる期間(除斥期間といいます)が5年となっており、5年以内であれば調査に入ることができますが、税制改正前は増額更正の除斥期間が3年であったことと、時間の経過とともに相続人がその当時の状況を完全に忘れてしまっていることもあり、私の感覚的にいうと、申告期限から1年から2年の間で税務調査に入るケースが多いと思います。
では、どういう方が税務調査の選定に選ばれる可能性が高いのでしょうか。
個人的な感覚や過去の税務研修で聞いた内容によれば、以下の事項に当てはまる方は税務調査に入る可能性が高いのではないかと考えられます。
- ・ 大口資産家の相続(大口資産家とは、所得が1億円超の資産家又は前回相続の際に5億円超の財産を承継した資産家のことをいい、一般の納税者とは別にファイルとして重点管理されています。)
- ・ 過去に公示対象となった方(現在公示制度は廃止されてありません。)
- ・ 富裕層になりやすい職業の方(医者、弁護士、同族経営の創業者一族など)
- ・ 過去の税務調査(同族法人等の調査も含む)で、重加算税が賦課された方
- ・ 同族法人をお持ちの方で、同族間での貸し借りが多い方
- ・ 確定申告書の収入に対して、相続税の申告書に計上した金融資産などの資産が少ない方
- ・ 国外勤務をしていた期間が長い方、海外出張が多い方
- ・ 相続人の職業や年齢の割に、相続人の金融資産などの財産が多い方
- ・ 債務が多く計上されているが、それに対応する資産が上がっていない又は不透明
- ・ 同族株主以外の少数株主が存在し、名義株が疑われるケース
- ・ 貸金庫がある
- ・ 税理士が関与していない申告
また、現在、国税当局は、海外関連資産も重点課題として取り組んでいると聞いています。
国外財産調書や国外送金等調書の他、租税条約に基づいて、外国の税務当局に情報開示の要請をしたり、OECD加盟国の税務当局同士でCRS(共通報告情報)に基づく金融口座情報を交換したりするのどして積極的に情報収集を行っていますので、申告の際には、国内財産のみならず海外資産の漏れがないか注意が必要です。
調査に当たるかどうかは、ある意味運の問題もあります。調査に来てから右往左往しないように、申告の段階から税務調査で問題になりそうな争点について、抗弁できる主張の準備とその主張を裏付ける証拠の収集及び保全をしておくべきです。
そういう意味では、申告の際に申告報酬の多寡だけではなく、遺産分割のアドバイスや将来の税務調査を踏まえたアドバイスしてくれる税理士を選ぶことも大事です。
忘れたころにやって来る。それが調査というものです。
資産税部 野又 崇
2022/06/05
- 税務・会計について