企業として見た戦国大名
企業として見た戦国大名 真山知幸著
この本は、誰もが一度は聞いたことがある名だたる戦国大名が現代の経営者だったら、どんなトップでどんな経営をしたのだろうかと、彼らの打ち出した内政政策や外交方針、または心情を吐露した手紙などから分析し、戦国時代にあったエピソードを交えつつ、現代の企業に例えたものです。
この本では、有名な織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、武田信玄、上杉謙信、毛利元就、伊達政宗などのメジャーな武将はもとより、大友宗麟、長宗我部元親、朝倉孝景など、知る人ぞ知る的な武将まで出てきます。
その中から2つご紹介します。
① 織田信長率いる織田家は、「実力主義でトップが怖いベンチャー企業」
実力があれば、下層民の出身でありながら異例の出世をとげた豊臣秀吉からもわかるように、才能があることを見抜くとすぐに能力に見合う仕事とチャンスを与えます。更に成功すると部下や領土が与えられ、部下のモチベーションを上げ、少数ながらも桶狭間の戦いに勝利することから、織田家は勢いのあるベンチャー企業に例えられています。
なかでも、与えられる領土には限りがある為、成功した者には茶器を持つものしか茶会を開けないというプレミアをつけた茶器を与えることにより士気を高めたエピソードは、感心しました。
② 織田信長と対照的な上杉謙信率いる上杉家は、「努力や苦労が報われないブラック企業」
対照的な原因は、何よりも「義」を重んじて、天下統一を目指さなかったこと。
謙信は、新潟県の春日山城を本拠にしていたのですが、「義」を重んじる為、要請があれば越山をして関東へ駆けつけて戦をするのですが、領土が増えるわけでもないので、部下たちは20年の間に冬山を11度も超えても期待する見返りはないという過酷さでモチベーションは上がりませんでした。
その為、不満を持つ謙信の配下で争いが多くあり、「こんなに自分(謙信)は頑張っているのに慕われていないのではないか」と、謙信が26歳の時に突然「引退宣言」をし、新潟から和歌山の高野山まで逃亡してしまいます。そこで家臣が慌てて懸命な説得をしたため、謙信は「当主として必要とされている」と実感し、「引退することを辞めます」と撤回するなど、今でいう「かまってちゃん」な部分も少しあったようで驚きました。
その後は「関東要領職」の務めをきちんと果たしていましたが、やはり現場の人間には伝わらず、待遇も良くならなかったため(社会貢献はしているから社外の評判はいいのに、社員の給料などの待遇は上がらないので)「ブラック企業」に例えられたようです。
その他にもいろいろと興味深い話はあったのですが、これらのエピソードで上杉謙信のイメージはがらりと変わってしまいました。
この2つの他にも、現代の企業と重なり合わすと「なるほど」「そんな昔からやっていたのか」と感心することも多くあり、長く続いた徳川家や武田家、急激に成長するも長続きしなかった織田家や豊臣家、地方で急成長したグローバル企業に例えられた大友家など、さまざまな状況がわかりやすく現代に例えられており、意外と親しみやすいエピソードも多く見られてとても面白かったです。
歴史の偉人ですら大きな悩みを抱え、またその偉人の家臣からの目線も具体的に書かれているので、両方(社長と社員)の気持ちや考えに共感できる内容です。
戦国時代がお好きな方はもちろん、歴史を勉強中の中高生にも楽しく読める本ではないかと思いました。
アイネックス税理士法人 西本
2020/11/12
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