『キングダム』で学ぶ乱世のリーダーシップ 原作 原泰久 著 長尾一洋
あなたは、漫画『キングダム』をお読みになったことはありますか。『キングダム』は大人気で、現在連載中です。私も薦められて読み始め、すっかりはまっています。
『キングダム』は、秦が中国全土を統一する春秋戦国時代を、史実に基づいた設定で描いています。経営コンサルタントである著者は、徒手空拳の若者に対し、現代の乱世を生き抜くために、『キングダム』を通して、組織や国を率いて行くリーダーとなる条件を知って欲しいという狙いで本書を書いています。
『キングダム』は、戦争孤児である主人公の信(しん)が、最下層から、百人将、三百人将、五百人将、千人将と少しずつ這い上がり「天下の大将軍」を目指すストーリーです。ストーリーの面白さはもとより、登場人物たちが実に魅力的です。大将軍、将軍、宰相、軍師など、タイプの違ったリーダー達が、リーダーのあるべき姿、リーダーの満たすべき条件を教えてくれます。
著者はリーダーの条件として次の10の項目を挙げています。
リーダーの条件① 人を巻き込み同士とできるか
リーダーの条件② 率先して範を示せるか
リーダーの条件③ 先を見通し細部まで気を配れるか
リーダーの条件④ 合理的に考え時に非情になれるか
リーダーの条件⑤ 部下愛を持って人を育てられるか
リーダーの条件⑥ 前向きさと明るさを持っているか
リーダーの条件⑦ すべてを背負う覚悟はあるか
リーダーの条件⑧ 人間を理解しているか
リーダーの条件⑨ 熱いビジョンを作り示せるか
リーダーの条件⑩ 自らを捧げる使命感はあるか
『キングダム』に登場する「将」はみな魅力的ですが、すべてを兼ね備えている人物はなかなかおらず、誰もが欠点も持っています。では、どうすればよいのか。その解決策として、その部分を補う副官、同士、秘書を探すこともひとつだと著者はいいます。
私たち仕業は、常に中小・中堅企業のリーダー達と接しています。十年ほど前、私は駆け出しでしたが、ある二代目経営者から三代目のサポート役を依頼されました。三代目はある大企業にお勤めでしたが、家業を継ぐため実家にお戻りになり、たいへんお若くして社長に就任されました。就任直後、事前に私に相談されることなく、社長は社内のある改革に大なたを振り、労使関係をこじらせてしまいました。従業員から直接私にクレームが入ったため、すぐに社長にアポを申し入れました。私はその時、おがましくも、「社長の改革は会社のためにならない」という趣旨のことを懇々とご説明しました。社長は納得した様子は見せませんでしたが、大なた改革を進めるのはおやめになり、私は労使関係をなんとか回復させることができました。社長はもともと商売に優れた才覚をお持ちだったので会社は益々発展され、今では押しも押されもせぬ経営者となっておられます。社長は当時のことを、「あの頃、面と向かって私にものを言ってきた人はSさん(私のこと)だけだったよ」と懐かしく笑ってお話してくださいます。青二才の私の意見に耳を傾けてくださった社長に感謝するとともに、多少なりともお役に立てたことをうれしく思っています。
仕業として法律上におけるコンサルを行うことは当たり前ですが、同時に、経営者がリーダーの条件10項目を満たせるようにサポートするという視点から経営者の方々との関わり方を考えてみるのも面白いかもしれません。そのためには、本書からリーダー論を学び、リーダーのことをよく理解し、自分がどうすればリーダーの助けとなれるのかを、それぞれのリーダーのタイプに合わせて真剣に考える努力を続けていかなくてはなりません。
私も、主人公の信(しん)にとっての、河了貂(かりょうてん)や羌瘣(きょうかい)のようになりたいものです。
A.S
2020/10/31
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